◎戦闘機
私がNSRを買ったのは、2015年春でした。当時、45歳。20年ぶりのバイク購入です。典型的なリターンライダーです。私が買ったNSRは1989年製です。つまり、購入時点ですでに「26年のビンテージ」モノでした。
そんな古いバイクをなぜ買ったのか?明確な理由があります。バカみたいに聞こえるかもしれませんが、私は真剣に、こう思ったのです。
「戦闘機が買えないから」と。
NSRは「レーサーレプリカ」というジャンルに属します。「レプリカ」とは「模している」という意味です。しかしNSRの開発の歴史を知ると「レプリカ」という表現は「弱い」と感じるでしょう。
「NSR250Rはレーサー」と言い切ってもいいくらいです。実際、NSRはサーキットで走る前提で作られたバイクで、購入者もサーキットや峠を攻めるためにNSRを求めました。
世の中の男子がそうであるように、私は、格好いいものが好きです。フェラーリが好きです、ポルシェが好きです、コルベットも好きです。
でも一番好きなのは、F15戦闘機です。
しかし、石油王でもIT長者でもない私は、どれも買えません。でも「格好いいものが欲しい」この思いは募るばかりです。
しがないサラリーマンである私は、小遣いの範囲で格好いいものを選ぶしかありません。超低予算です。でも、格好よさの追求というものは、妥協ができません。「ちょっと格好よさは落ちるけど、おカネが足りないからこれでいいや」という選択ができないのです。
そうして選びに選び抜かれたのが、NSRだったのです。
F15戦闘機とNSRのデザインは「絶対的な共通点」あります。それは、「薄く」て「尖って」いることです。私の格好よさの基準のひとつに「エッジ」があります。F15のエッジのきき具合と、NSRのエッジのかかり方は、本当によく似ています。両方とも、前がしぼんでいて、後ろがグラマラスです。
F15戦闘機とNSRの共通点はまだあります。これも重要なポイントです。速いことです。男子にとって、速いことは「完全正義」ではないでしょうか。私は「スピード信奉者」です。でも、「スピード狂」ではありません。公道を200kmで走り抜けるようなことはしません。しかし、ただただ「スピードを出せる可能性を内に秘めたモノ」を所有したいと願うのです。
F15戦闘機の速さは、説明不要でしょう。
では、NSRはそんなに速いのでしょうか。排気量は高々250cc。少し大きめのコップ1杯分です。速いはずがありません。私のNSRの最高速度は、実際にはそこまで出したことはありませんが、多分時速140km程度だと思います。
でもNSRは速いんです。ある特殊な条件下では、フェラーリより速いかもしれません。なぜなら、NSRはとても軽いからです。
◎軽いことのパフォーマンス
NSRのエンジンは、2ストロークというエンジンです。現在バイクで主流になっているのは、4ストロークというエンジンです。この2つのエンジンの違いを、ざっくり説明すると「4つより2の方が、数字が少ない分、単純」ということです。
単純ということは、余計なものが付いていないということですので、つまり軽いのです。単純なので、抵抗も小さくなります。「抵抗」とは障害物のことです。2ストは4ストより障害物が少ないので、速く回るのです。
この「軽くて速い」というエンジン特性は、「エンジンという部品」だけにとどまらず「NSR全体」の性格にもなっています。バイクあるあるのひとつに「立ちごけ」があります。
カーブを曲がりきれずに転倒するのではなく、停止しているときに、ふいにバランスを崩して、ゴテッっとやってしまうやつです。NSRは車体が軽いので、立ちごけとはほぼ無縁といえます。押して歩いたり、取り回しもとても楽です。
ひとたびアスファルトの上に舞い降りると、ビュンビュンです。まさに「蝶のように舞い」状態です。押し歩くときも、操縦しているときも、とにかく「よっこらしょ」がないのです。これは、45歳のおっさんライダーにとっては、とても重要な長所なのです。
◎身長170㎝で楽々
足つき性はばつぐんにいいです。シート高が低い上に、シートの幅も広くないので、「股をあまり開かない」でいいからです。私の身長は174㎝ですが、多分160㎝の方でも足つき性は問題ないと思います。
仮に、背の低い方がNSRにまたがり、つま先しか付かない場合でも、車体が軽いので、「大丈夫そう」と思えるとおもいます。重たいバイクだと、両足のかかとが地面に付いていても、不安に感じることがありますが、そういったストレスはNSRには皆無なのです。
◎イメージと実際
私にとって、手に入れる前のNSRは、憧れそのものでした。ところがNSRが新車で発売されていた80年代後半に、私は別のバイクを買ってしまったのです。NSRよりマイルドな性格のバイクを、です。「NSRは峠を駆け抜ける人が乗るもの」というイメージが強すぎて、どんくさい私は、NSRに気後れしてしまっていたのです。
働きだして給料が安定したころになると、NSRはもう売っていませんでした。ネイキッドブームの到来で、レプリカバイクが駆逐されたのです。しかも、そのころの私は自動車を買わなければならず、バイクに割けるおカネがなく、それで中古のNSRも買えませんでした。ですので、45歳で「NSRを買った」ことは「青春を取り戻した」と同じ意味を持つのです。
そうして自宅に納車されたNSRは、イメージ通りのものでした。号砲を待つウサイン・ボルトがクラウチングスタートの姿勢を取っているかのような、「前のめり」「後ろ突き上げ」のようなスタイルは、見飽きることがありません。質感のあるパーツ類や、雑誌でしか知らなかった特別装備にも、思わずうなってしまいます。
昼にツーリングして、夕方帰宅して軽く洗車して、車庫に納めて、自宅の居間でビールを飲んでいると、ムクムクと「NSRに会いたい」という気持ちがわき上がってくるのです。そして缶ビールを片手に車庫に行き、「NSR酒」を楽しみます。
◎問題はコスパ
NSRを2016年に買う「メリット」は、なんといっても「コスパ」でしょう。250ccなので、車検がありません。また、「人気車種」とはいえ、「相当古い中古車」なので、車体価格がとても安いです。私が買った1989年型NSRの車体価格は30万円でした。
諸費用をすべて含めた「コミコミ価格」でも40万円です。ただこの金額は、購入先のバイク店で提供しているオイルサービスやロードサービス、盗難対策などを含めた価格ですので、それらを除けば「コミコミ価格」は35万円くらいになるります。
しかし、NSRの最大の「デメリット」も、これまた「コスパ」なのです。燃費が10km程度と、バイクとしては最悪レベルでガソリン代がかかります。でも、これは仕方がないとします。2ストオイルの補充で、これまた費用がかかります。でも、これもやむえないとします。
そんなモノが問題にならないほど費用がかかるのが、修理費です。購入1年で、修理費に15万円を使いました。NSRの修理を専門に行っているショップによると、まだまだ故障は出てくるといいます。最も運が悪い壊れ方をすると、50万円くらい簡単にすっ飛ぶそうです。
◎購入を考えている人へ
「憧れ」であり、「伝説」であり、「クラシック」であり、でも「現役並みの走り」を見せるバイク、それがNSRです。NSRを所有している喜びは、ハンパないです。大型バイクが全盛の現代、250ccのバイクは少しさみしい感じがしますが、NSRだけは例外です。大型ライダーにも、一目置かれるような、特別な存在なのです。
しかしこれを所有するには、情熱とおカネが必ず必要です。
まずはインターネットで、「NSR250R」と「維持」で検索してみてください。無数の苦労話が出てくるでしょう。これをひと通り読むことをおすすめします。そこに書いてあるのは、決して「脅し」ではありません。
しかし、私を含むNSRのオーナーたちは、そんな苦労があっても、NSRを手放せないのです。それは、NSRには、とてつもない魅力があるからです。逆にいえば、情熱とおカネさえあれば、ほかの誰も味わえない、NSRオーナーだけのバイクライフが満喫できます。
2016年1月現在、45歳の男子。ペンネーム、mitsuhisaasa。2015年に20年ぶりにリターン。購入したバイクは、1989年製のNSR250R。日本の東端のまち在住。
180km/hくらいな、よゆーででます笑笑