映画「汚れた英雄」ばりのバイクガレージを持つトシちゃん
古い映画ですが、40歳以上のバイク乗りなら、覚えているではないでしょうか。草刈正雄さん主演の「汚れた英雄」です。ハンサム・プロライダーの活躍ぶりを描いたストーリーです。当時、全日本ロードレースのチャンピオンだった、平忠彦選手が、スタントマンとして登場したことも話題になりました。
そのワンシーンが、34年を経た現在でも、45歳のおっさん(私、2016年現在)の心を離れないのです。
草刈正雄さん扮する主人公、北野晶夫が、自宅で美女とくつろいでいます。その家の豪華なことといったら、それはそれは、です。コンクリート打ちっぱなしの壁に囲まれた、ガレージ兼応接間。そうです、ライダー憧れの「バイクと住む」生活が広がっていたのです。
私は昨年の2015年に、20年ぶりとなる、リターン・ライダー・デビューを果たしました。中古のNSR250Rを40万円で買い、近所をちょこちょこ走っています。NSRを買ってから1カ月が過ぎたころ、暇つぶしに購入先のバイク店に遊びに行きました。そこに、トシちゃんがいたのです。
もちろんそのときは初対面でしたので、お互いの素性を知りません。軽く会釈を交わしたぐらいです。するとトシちゃんの方から、「外のNSR、あなたのですか?」と聞かれました。リターン・ライダーを始めてから、初めての「ライダー同士の会話」です。嬉しくなりました。
「そうなんです。1カ月前にこの店で買ったばかりです。もしかしたら、外に停めてあったR1があなたのバイクですか?」と私。
「そうですよ(にこにこ)」
R1とは、ヤマハ史上、最高の性能を誇るスーパー・スポーツYZF-R1です。後から知ったことですが、トシちゃんの年齢は41歳。私と同世代です。その歳で、このモンスターマシンを乗っていることに驚きました。
トシちゃんとの会話は、バイク店の店長の助けもあり、その後も盛り上がりました。そして去り際、トシちゃんからツーリンググループに誘われました。私は二つ返事で入れてもらうことにしました。
そのグループでの3回目のツーリングは9月でした。待ち合わせ場所のコンビニには、6台が集結しました。250ccは私だけで、ほかの6台は、トシちゃんのR1、トシちゃんの奥さんのXJR1300、さらにZX-14R、HAYABUSA、ZRX1200DAEG、GSX-R1100と大型バイクばかりです。また、リターン・ライダーも私だけで、その他のメンバーは、バリバリおっさんライダーです。
すると、トシちゃんが私に「今日はそれだとつらいかも」と言いました。「それ」とは私の服装でした。私が身に付けていたのは、スニーカーにGパン、上はトレーナーの重ね着と、薄い皮ジャンでした。
トシちゃんの心配は、晴れているとはいえ9月なので、きっと走り出してすぐに寒くなるだろう、というのです。トシちゃんも、トシちゃんの奥さんも、ほかの4人も、防寒機能が装備されたライダー・ウエアを着こんでいます。
私は「大丈夫だと思いますよ」と言ったのですが、ほかのメンバーも「いや、それじゃあ、寒いわあ」と言います。するとトシちゃんは「俺のジャンパーを貸してあげるよ。うち、この近くだから一緒に行こう」と言ってくれました。
仲間をコンビニに待たせておいて、2台でトシちゃんの家へ向かいました。そこで目にしたモノに、まあ驚きました。
外観はそうでもないんです。新興住宅街にある、普通の小じゃれた一軒家です。でも中身がぶっ飛んでいました。「汚れた英雄」のセット、まんまです。
コンクリート打ちっぱなしの壁で囲われた、20畳はくだらないガレージには、オフロード・バイクと大型バイクが置いてありました。トシちゃんのR1と、奥さんのXJRは外に出ているわけですから、トシちゃん家には4台のバイクがあるわけです。
壁は衣装掛けになっていて、皮つなぎやジャンパー、オフロード用プロテクターなどがぶら下がっています。ヘルメットもブーツも、オン、オフともにあります。それらが整然と並んでいるのです。その品数にしても、おしゃれなレイアウトにしても、バイク店のようです。
私は「うわーっ」と言ったきり、しばらく絶句しました。そしてようやく「トシさん、まじっすか、これ。汚れた英雄じゃないですか」と言いました。
トシちゃんは「まあまあ、それよりも仲間が待っているから、これを着てください」と、ジャンパーとズボンを貸してくれました。
驚いたのは、ガレージだけではありません。そのガレージは、自宅の居間に直結しています。それだけではありません。居間とガレージをへだてるのは、壁ではなく、透明の大型ガラスなんです。居間でウイスキーを飲みながら、自分のバイクを愛でることができるのです。
うちのツーリンググループは、暗黙の了解として、仕事についてあまり話さないことになっています。私も聞かれません。ただ、なんとなく耳に入った情報によると、トシちゃんの職業は「ビルメンテ」ということでした。従業員なのか経営者なのか、それは謎のままです。
とにかく、こんな夢のようなバイクライフを送っている人が、こんな身近にいるんだなあと、ツーリングの間中、ずっと考えていました。あまりに凄すぎて、うらやましいという感情が湧かないくらいでした。
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