ハーレー・ダヴィッドソン(以下、H.D.)の中でも、パワフルで鼓動感のあるショベルヘッドエンジンに憧れを抱く人は少なくありません。
「フェニックス」は、そんなショベルのリプロエンジンを搭載し、新車でありながら旧車の魅力を味わえる、夢のようなバイク……。
の、ハズでしたが以前からの評判の悪さが祟ったからでしょうか、2010年を過ぎた頃に姿を消してしまいました。
勇気を振り絞ってフェニックスの中古者を乗り始めて6年間を経過した今、そのレビュー&インプレッションをお届けしましょう。
Contents
―ショベルの基本スペック・性能―
車輛はS&Sショベルヘッドをアフターパーツメーカーのパウコ社のリジッドフレームに乗せ、同パウコのスプリンガーフォークをセット。
シフトチェンジはフットボード&シーソーペダル仕様で、推定容量2ガロン(約7.6ℓ)のピーナッツタンクを搭載していました。
車検証に記載される車種名はフェニックスとあり、H.D.とは区別されるべき存在ですが、いわばカスタムされたH.D.のカスタム旧車のレプリカ、という位置づけになるでしょう。
操作性や乗り味などはH.D.そのもので、旧車のように神経を使わずに乗れるのが魅力。
と言いながら、国産バイクと同じような感覚で乗っていると必ず痛い思いをするでしょう。
事実、数えきれないほどのトラブルに見舞われ、そのたびに国産バイクとは構造も理念も違う、良くも悪くもアメリカの乗り物なんだな~というのを実感します。
―衝撃的な乗り心地。リジッドフレーム―
フレームのしなりとシートスプリングが路面の衝撃を和らげるリジッドフレームの乗り心地は正直に申し上げて「悪い」です。
大きなギャップに悲鳴を上げることも。ですが道の凹凸を素直に拾う乗り味はそれを避ける頭脳を要し、乗り手を退屈させません。
フロントのスプリンガーフォークも造形美は美しい限りですが、まるで衝撃を吸収せず、酷いギャップでは完全に車体が宙を浮くことも!
その衝撃が故障の原因にもなるので、’77年のFLHからテレスコピックのグライドフォークを移植。今では快調になりました!
―心地良い不等間爆発音と儀式めいたキックスタート―
ショベルエンジンの魅力は不等間爆発音のアイドリングに尽きるでしょう。
構造を同じくするS&Sショベルにもそれは継承され、同じく地面を蹴り上げて重たい車両を前へ運ぶトルクフルな走りも健在。アクセルを開けた時の、粘りのある加速感は病み付きになります!
キャブレターは、レトロなドームを配置したSUキャブ。どんな悪天候でも始動性の良さを実感できるとともに、メンテナンス性の良さやピストンがトントントンと上下するメカノイズも心地良いもんです。何よりもコールドスタート時の動作は火を入れる儀式そのもの。
エンジン始動はキックスタートに、オマケ程度にセルスターターを装備していました。しかしセルの始動は信頼性に乏しかったため思い切ってセルモーターを外し、キックオンリーに。一度コツを掴むと実に簡単に掛かり、愛車との距離が一気に縮むのを実感できます。
シルキーな走りや静寂性が増した現行のH.D.エンジンにはない、がさつでプリミティブなメカメカしさは、常にマシンと対話しながら“走らせている”という感覚を意識させ、長距離のランもまったく眠くない。それがフェニックス・ショベル最大の“味”でしょう。
―小さいタンクは常に綱渡り―
タンクは俗に言うピーナッツタンクで、つや消し黒に赤いスキャロップが描かれたクールな造形でしたが容量はたったの7.6ℓ。
手持ちのガソリン携行缶には300ccほどしか入らないので、タンクが空になるまで走っての燃費計算はリスクが高すぎということで断念。
しかし満タン(対応ガソリンはハイオク)から、リザーブコックを作動させてギリギリまで走らせたところ、80㎞超は走行可能でした。
そこから得た感覚的燃費数値は約10㎞/ℓ。走り慣れている東名高速道で例えるなら、海老名SAの給油から新東名の駿河湾沼津SAまで。
SAを1か所通過する程度で、また給油……。これはストレスですね。
そこで容量3.5ガロン(約13.3ℓ)のH.D.用社外タンクに交換。これなら東名高速の起点、用賀インターチェンジに入る前に給油したら、新東名高速の浜松までノンストップまで走れるようになりました。
―自分仕様。カスタムの精髄に近づく―
さらに雰囲気のあるフットボード&シーソーペダルもカーブでガリガリ擦るため、山道の多い地元に合わせてミッドステップに変更しました。
2本出しのマフラーは相変わらず右カーブで擦りますが左カーブは思う存分、車体を寝かせられるようになりました!
そう、カスタムの本質は「自分仕様」。やみくもにドレスアップするのではなく、自分の乗り方に沿ったカスタムをすることで、どんどん乗りやすくなってきます。最近では虫のアタックを避けるために布ダレ風防を取り付けて、よりクラシカルなルックスになりました。
こうして乗りやすく、自分好みのルックスに何度でもカスタマイズの上書きができる自由度の高さ。
その楽しさを教えてくれるフェニックス・ショベルですが、さまざまな故障も経験しました。次回はその体験と対策について語りましょう。
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